みなまで言うな。コーシュカのすべて

【恋愛黒歴史】雲男。その拾壱

【恋愛黒歴史】雲男。その拾壱

前回のつづき。

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ピンポーン

チャイムが鳴る。

久しぶりに彼に会う私は久しぶりにちゃんと部屋を掃除し、久しぶりにちゃんと化粧をし、久しぶりに鏡の前でキメ顔の練習をした。もし美女と浮気していたのならば、負け戦だけれども少しでもその超えられない壁に近づくだけでもしておこうと思った。

もし別れを告げられるのであれば、最後に今までで一番綺麗な私を見せつけていつか後悔させてやろうと。

・・・まあ、悪あがきである。無駄な抵抗とも言う。


「久しぶり・・・とりあえず入って。水かビールしかないんだけど飲む?」

久しぶりに見たけど相変わらずどストライクだなおい。この顔をまたこんなに近くで見れただけでもういいじゃないか、全部なかったことにしてしまおうと一瞬思ったが、さすがにそれはプライドがなさすぎる。

「じゃ、ビールで。ありがと」


何に乾杯なのかはわからないが、ベッドを背にして横に並んで座り、ひとまず乾杯。適当な会話から入りつつ、早速本題に入る。

「仕事、かなり忙しそうだったけど・・・全然休んでなくない?大丈夫なの?」

「うん、まあね・・・」

歯切れが悪い。

「こんなに会えないなんてほんと浮気でもしてるんじゃないかと思ったわ」

と、私は精一杯の皮肉を込めて言った。

のだが。


「浮気・・・え?俺らって・・・付き合ってんの?」



時が止まった。ザ・ワールド。

え?ちょっと何?聞き間違いかな?私いま聞き間違えたのかな?それとも彼が言い間違えたの?あのー少し考える時間くれるかな。いや待って、確かに思い返せば付き合うとかそういう話はしてなかった気がするよ?でもさ、告白してそっちも好きって言ったら両想いってそういう事ではないの?え、違うの?私の認識が間違ってるの?私が非常識なんですか?変わってるとはよく言われますけども!!!

「え・・・付き合ってないの?」

「・・・いや、付き合ってんのかな・・・ごめん、ちょっとそこらへんこだわってなかったから曖昧だったかも」

「・・・あ、なんだ、そうだったのか。付き合ってなかったんだ・・・え、なんか私ひとりでバカみたいじゃない?勝手に勘違いしてめっちゃ恥ずかしいんですけど。うわーやばい私キモい、まじでキモい」


ショックすぎて涙も出なかった。そう、これが世に言う「唖然」というやつですね。


「いやそんなことない。付き合うとかは確かにこだわってなかったけど特別だし、すげえ大事に思ってるし」

「・・・え?まって、大事だって思ってるならなんでこんなに会えなかったの?大事でも彼女なわけじゃないから?いくら仕事忙しくても家も遠くないんだし少しくらいは会えるよね?会えなくたって電話くらいはできたよね?そうやっておかしいなって思ってても仕事を理由にされたら聞けないじゃん・・・」

彼女とも思っていないのに、ただの都合のいい女だったのに、それでも大事に思ってるなんて言葉を口に出す。こんなに都合の良い女は他にいないっていう意味ですか?ちょっと何言ってるかわからない。私は今まで言えなかった言葉を一気に吐き出した。彼女でもないのに、だ。

あーあ。今絶対私のことめんどくさい、うざい女と思ってるだろうな・・・やっぱ会わなきゃ良かったって思ってるんだろうな・・・と、後悔していた。

「ごめん・・・ほんとに仕事が忙しかったのもあって、会いたかったけど色々あって・・・いや、やっぱちゃんと言うわ。あんたに会えなかったのはそれだけじゃなくて」


と切り出しながら、彼の顔が僅かに歪んだ。


「・・・うん、なに?」

「・・・俺さ、前からずっと憧れてた人がいたの。あんたに会うずっと前から。でもその人結婚しちゃって。で、そん時にもう諦めたのね。諦めたはずだったんだけど、最近久しぶりに連絡来て」

「うん」

「その人さ、電話で旦那が浮気してたって泣いてて。会いたいって言うから話だけ聞いてあげようと思って会ったの。あ、俺ちゃんとあんたのこと言ったのよ?好きな人いるって」


話をまとめるとこうだ。

彼は結婚してしまったかつての憧れの人から旦那が浮気したと泣きつかれ、会いたいと言われたからすぐに会いに行き、会って話を聞いてるうちになんとか助けになりたいと思い、そこから時間があればその彼女に連絡し会いに行っていた。

彼女はその時家出をしていて友達のところに泊まっていたが友達の彼が来るので気まずいと言い、それなら自分の家にいていいよと合鍵を渡した。彼女は私の事を危惧していたが、彼が大丈夫だと説得したようだ。なにが大丈夫なのかはわからないが、それはもう側から見ると同棲状態である。彼が言うには一切手は出していないとの事だが、真相はわからない。

タクさんが言っていた「めっちゃ綺麗な女」の正体は彼女だった。

彼女が家にいるし、私に対する後ろめたさもあって連絡できなかったと彼は言う。


「しばらく俺の家にいたんだけど、旦那からその人に電話かかってきてさ。何話したのかはわかんないんだけど、結局その後すぐ帰ったんだよね。あっけなく。何事もなかったみたいに」

「・・・・・うん。それで?」

「それで・・・俺さ、旦那と別れるんじゃねえかなって思ってた。別れろよって思ったんだよね。結婚したのに浮気するようなやつ。でもその旦那から電話来た時さ、その人ちょっと嬉しそうだったんだよね。浮気されたのに。なんかさ、俺ただ振り回されただけだったなーと思って」

「・・・・・・・・・・・」


彼を殴りたくなった。


それを、正直に話して、聞いた私は、一体なんて!言えば!いいんで・す・か!!!!!!!!!!!!!!!!!!?

そのお話、あなたと美女が主人公の切ないラブストーリーですよね?私はその感想を言えばいいんですかね?私情をはさまずに感想言うのとか激ムズ案件ですけど?

なんなの?慰めて欲しいの?「そっかーそれは悲しかったね、よしよし」って言えばいいの?てか一番それに振り回されたの私じゃね?いやでも付き合ってはいないから私は勝手に振り回されてたことになるの?いやないわーまじでないわーさすがになんか怖くなってきたんですけど。自分の事を好きな女に対して、憧れの女に振り回された話をよくもまあ切なそうに話すよね。怖い。

確かに今まで彼は私になんでも話す人だった。自分や親兄弟や友人、仕事仲間やお客さんの話までいつも面白おかしく話してくれて私を楽しませてくれた。

けど、こんな事まで話すのって友達とかじゃないの?好きな人、大事に思ってる人に普通話す内容?しかもその大事に思ってるらしき人を放っておいてる間の出来事を!まあそもそも会えなかった理由聞いたのは私なんですけども!!!

でもさーなんで本当のことをベラベラしゃべっちゃうのかな。隠せよ!どうせなら完全に隠してくれ!私が少しも変に思わないくらいに完璧に!!もうこの際、不器用ですからじゃねえんだよおおおおおお!!!!!


「・・・・で?それで彼女が旦那さんのところに戻ったから、君は私に会いにきたの?」


私は静かに激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

「うん・・・ごめん。やっと会いに来れた」

「いや、別に謝る必要もないんだけどさ、彼女でもないわけだし」

我ながら皮肉たっぷりだ。

「でも今回のことでわかったわ。結局俺はあんたが一番なんだよね」

「・・・・・・・・・」

彼は私の静かなる怒りを感じ取ったのか、そっと、ぎこちなく、遠慮がちに抱きしめてこう言った。


「俺ら、ちゃんと付き合おっか」


・・・・本来ならば嬉しい言葉のはずが全然響かない。

まあそもそも私はひとりで勝手に付き合ってると思ってたんだから響くはずもない。

というかさ、ねえあんな話をしたあとのこの流れでそんなこと言う?空気読めないんですかね?

もうなんというか、下手くそすぎて笑えるんですけど。バカにするのもいい加減にして欲しい。いやどっちかって言うと君がバカなのかな。救いようのないバカ正直者なのかな。


「・・・・ちょっと、ごめん、今その、話聞いたばっかだし・・・」

「・・・ごめん。俺なりにあんたの事ちゃんと考えてるから」

「そう言われてもちょっと今わかんない、わからなさすぎる」

「ほんとごめん。でもすげえ好きなのは本当だから」


好きとか簡単に言うな。どうせ美女と一緒にいたあの期間中は私の事なんて微塵も考えもしなかったくせに。美女が去った今、残り物の私のことをやっと思い出して「やっぱこいつが一番だな〜」とか簡単に思ってくれてんじゃねえよ。

聞いてりゃさっきから自分の事しか考えてないよね。めちゃくちゃ自分勝手で私の気持ちなんてこれっぽっちも考えてくれてない。

悔しい。

すげえ悔しいのに。

幻滅してもいいくらいなのに。


好きと言われてまだ嬉しい私は大馬鹿者だ。


「ちょっと考えさせて」

そう言ってその日は彼を家に返した。


彼と付き合っているとばかり思っていた私が、付き合っていないという事実を突きつけられ、挙句に彼の恋バナを聞かされ、改めて付き合おうと言われた。

もうね、大混乱ですよ。


混乱した結果、お察しのとおり私は選択を間違うのだが、それが闇への入り口だったとはこの時の私はまだ知らない。


つづく


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