みなまで言うな。コーシュカのすべて

【恋愛黒歴史】雲男。その九

【恋愛黒歴史】雲男。その九

前回のつづき。

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・・・・・・。

何の前触れもなくキスをされた私は頭の中が真っ白になった。

彼の唇はやわらかく、ケーキみたいに甘く(食べてるからな)、シャンパンのようにほのかに香り(飲んでるからな)・・・いや、頭真っ白状態だったので実際そんな細かくは覚えてないのだけど、とにかくふわりと優しくて気持ちがよかった。

そしてお互いの唇が離れた今、鼻の先がくっつく距離に彼の顔が・・・!!!どうする私!どうすればいい!?このまま流されてしまうのか?本音は流されたいんですけどね、あの流されてもいいやつなのこれ?だめじゃない?てか展開急すぎない?だって今無邪気にケーキ食べてたよね?そして私が今右手に持っているフォークはどうしたらいいの??

と全く動けず迷っている間にもう一度、彼のそのやわらかな唇でふさがれた。

きっと一度目は確認のキスだ。私がそれを受け入れるか拒否するかを彼は試した。私が拒否しなかったから、受け入れたと思った彼は再びGOしたのであろう。

この気持ち良さは罪だ。もう抵抗できない。そうだ、流されてしまおう。そんな難しい事なんか考えずに、本能に従おう・・・


・・・でも待って。なにか大切なことを忘れてない?

ギリギリで持ち直した。

私は彼が好きだ。けれど、彼が私のことを好きなのかを聞けていない。私とやりたいだけなら好きじゃなくたってキスくらいするだろう。もしかしたら好きでもないのに好きだとその場だけの嘘をつくかもしれない。それで?それで彼と致してしまったそのあとは?彼がもしそれだけの目的だったとしたら、今までのこの関係は終わってしまうんじゃないの・・・?

私は彼との関係にモヤモヤとしてはいたものの、一緒に楽しく過ごす時間が好きだった。一線を越えて終わるのより、越えずに今までのままのほうが私はいい。そう、越えてはいけない。

「ちょ、ちょっと待って・・・!」

彼の肩に手を当て、顎を引いて下を向く。息が荒い。落ち着け私。そして一旦フォークを置くんだ。

「・・・どした?」

「あ、いや・・・なんでチューしたのかな・・・って」

「・・・かわいかったからしたくなった。だめだった?」

「いや、だめじゃない!全然だめじゃないんだけど、あれだよ、うちら友達・・・な感じだと思ってたから・・・」

と早口に私が言ったと同時、抱き寄せられた。

彼が私の肩に顎を乗せ、耳元で言う。


「俺はそうは思ってなかったけど」


その言葉の意味を冷静に考える暇を与えられず、私の頭はもう使い物にならない。心臓の音がうるさい。私の理性が叫ぶ。さっきの決意は一体なんだったんだ、と。でも感情がもう抑えきれない。彼にそれを今ぶつけないと頭がパンクして心臓が破裂してしまいそう。


「なにそれ。どゆこと?・・・・・あ。やっぱり待って!あのさあ・・・ちょっともうだめだ。。言うつもりなかったんだけど言っちゃっていい?」

「うん、なに?」


「・・・・・・・好き。です・・・・・・・・ごめん」


私は彼の肩に頭を預けたまま、彼の顔も見ずに告白をした。


「・・・ふふっ。なんで謝んの?嬉しいんだけど」

「いや、迷惑かなと思って・・・」

「なんで?俺、好きな子以外にチューとかしないから」

「え、すっ、好き?・・・私が?」

「うん。結構前から」

「!!!!!!!!!・・・うそ。なんで言ってくれなかったの?」

「いや、なんか・・・友達と思ってそうだったし・・・てかさっき言おうとしたら先に言われたし・・・」

それ私だから!それでずっと悩んでたの私だYO!!!まさか彼も同じ事考えてたなんて信じられない。。え、というか彼ってこんな不器用な感じだったっけ。彼にしては歯切れが悪い。まさか照れてるの?照れてるんですか!?もっと自信あってホイホイ女口説きそうなイメージだったんだけど(失礼)本当はものすごく奥手なタイプなの?まあそれもそれで萌えるんですが。

「それまるっきり私と同じなんですけど」

「ウケるんですけど」

彼がにやけているのが声でわかった。その声を聞いて緊張の糸が切れた私は、安堵感に一気に包まれた。

「そうだったんだ〜。。そうだったんだ・・・・・ああ、良かった・・・グスっ」

「あれ、また泣いてんの?」

「だってさ、好きって言っちゃったら気まずくなってもう会えなくなるかもとかいろいろ考えてたから良かったなあと思って・・・」

「そんなわけないじゃん。そんなだったらこんな日に会いに来ないわ」

と、またにやけた声で彼が言い、私の頭を優しく撫でた。


私たちはそれから、何度も何度も、唇がヒリヒリするほど飽きずにキスをした。

「くち痛い・・・」「じゃあやめる?」「・・・やめない」

喉が乾いたらお酒を飲み、ケーキを食べ、彼に引き寄せられまたキスをする。なんて甘美で贅沢で幸せな時間ループなんだ。もうこのまま時が止まってしまえばいい。朝など来なければいい。

と、いくら願っていても夜は明けるのがこの世の決まり。


なんと彼はその日、それ以上手を出してこなかった。私があんなにぐるぐる考えていたのは一体なんだったんだ。

でも身体が目当てじゃなかった。大切にされている、この人は私のことが本当に好きなんだ。私はそう思った。

そしてこれからの私たちのことを想像し、とても嬉しくなった。これからは気兼ねなく連絡をとれるのだ。もう遠慮しなくていい。だってお互いに好き同士なのだから。

彼の腕の中、脳が覚醒状態で一睡もできなかった私は、彼が起きなければいけない時間にきちんと起こしてそのご褒美にキスをもらい、玄関先で笑顔で見送った。

「じゃ、頑張って」

「うん、また連絡するわ」

「わかった。じゃあね、きをつけて」

「ありがと。じゃ」

・・・オーマイガッ!!!こんな日が来るなんて・・・家で彼を見送る日が来るなんて・・・なんて日だ!!!!!信じられない!!奇跡体験!アンビリーバボー!!夢のようだ!!!夢ならば覚めないでくれ!!と思いながら、私はすぐに睡魔に仕留められて深い眠りについた。



その後、彼と会える時間は今までとさほど変わりがなかった。仕事が忙しく、お客さんにご飯や飲みにしょっちゅう誘われ、それを断れない・・・断らないと言った方が正しい。そこは彼の営業スタイルなわけで、少し不満はあるが私が口を出すべきところではない。

その上友人の誘いも優先するような人だが、友人を大切にしてる人はむしろ好きだ。交友関係が広く深い。彼は友人の話をよくするしそれがまた面白い。本音はやや不満だけれども。ただ、他所で飲んでいる時でもたまに電話をくれるのは嬉しかった。他の人と飲んでいても、私の事を気にしてくれているんだと感じられた。

私もその頃は音楽の活動で忙しくなり、仕事が休みの日には全て予定を入れてしまっていた。その為、彼と日中に会える時はほぼなかった。

驚くことに、彼と身体の関係を持ったのは私が告白してから約2ヶ月後のことであった。なかなか手を出してこないので思わずゲイ説やED説、果ては童貞説を疑ったが、思い過ごしだったようでほっとした。彼との距離が一層縮まったように思えた。もちろんその時、私の心臓は尋常じゃないくらいにドキドキしすぎて破裂した、と言っても過言ではないほどに、ほんとに卒倒しそうだった。危なかった。

それからしばらくは私の家に彼が来るのが定番となった。たまに早く会えた日には外でご飯を食べたりもしたが、結局ははやいとこ家でイチャイチャしたいのである。この頃の二人はまるでセックスを覚えたての高校生のようであった。

そのうち彼の家にも行くようになり、彼が作ってくれたカレー(ダジャレではない)を一緒に食べたり、音楽を聴いてやんややんや話したり、お酒を飲みながら映画を観たり・・・いや、観てる途中でそういう雰囲気になってしまうので最後まで観れる事はほぼ無かったが、会える日は少ないながらも会えた時には濃密な時間を過ごし、愛を育んでいた。

はずだった。



彼からの連絡が途絶えたのは、それからしばらく経った頃のことだった。


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