みなまで言うな。コーシュカのすべて

【恋愛黒歴史】雲男。その参

【恋愛黒歴史】雲男。その参

前回のつづき。

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どストライクな彼と劇的な出会いをした翌朝、私は念のため落としたコンタクトを探しに歩道橋へ急いだ。

コンタクトはもちろん見つからなかった。

けれど、そんな事はもうどうでもよかった。

むしろあの時にビューっと吹いてくれた風、私の目から飛び出していってくれたコンタクト、見つける事を困難にして探す時間を稼いでくれた夜、錆びれたこの歩道橋、そのすべてに感謝していた。すべては彼と出会うために用意された演出なのだ。

そう、私はその時、壮大な脳内お花畑の真ん中でアハハハハーと笑いながら走って転がり、お花を摘み、その摘んだお花で花冠を大量生産している真っ最中であった。

つまり、私は彼に恋をした。


それからというもの、私の歩道橋生活(?)は一変した。

今まではただ音楽の沼に沈むためだけの時間だったから、その間は現実世界の事なんて一切気にする事なく死んだ魚のような顔でトリップしていたわけで。歌ったり泣いたり、たまにニヤニヤしたり。まったく不審者きわまりない。

しかし私は知ってしまったのだ。

彼に見られていたという事を!!しかも何度も!!

顔は疲れていないか、化粧は崩れていないか、歯に海苔ははさまってないか、髪の毛に鳥のフンは落ちていないか。歩道橋に行く前に鏡で必ずチェックする。彼に会う前は一切気にしていなかった事だ。

私もこの歩道橋に来る時間が毎回決まっているわけでもないし、彼の帰りの時間だってわからない。それでももしかしたら彼に見られているかもしれないと思うと身なりを整えずにはいられないし、彼に声をかけられるかもしれないと思うと気軽に音楽の沼に深入りすることができなくなってしまった。

ここにいれば、また彼に会えるかもしれない。いつもどおり歩道橋の真ん中でヘッドフォンをして音楽を爆音で流してはいるものの、その視線はチラチラと階段下の歩道で彼を探している。

歩道橋が揺れるとすぐさま階段の方を振り向き、上ってきた人が彼ではないかを確認する。(まじこわい)

私の音楽沼な歩道橋は、あの日を境に彼を待ち伏せする見習いストーカー潜伏拠点となった。


そしてあの出会いから1週間と少し経った頃、私は打って変わって絶望していた。

待てど暮らせど、彼が現れる気配が全くない。

私の歩道橋の滞在時間は彼を待つために今までよりも明らかに長くなっている。それなのに見かける事さえないというのは、やはり彼は私の事などもう忘れてしまったのだろうか。それとも覚えてはいるけれど関わりたくなくてこの道を避けて帰っているのだろうか。。そうだとしたら最悪だ。私は一体何をやっているんだ・・・と思い始めていた。

もう会えないのかな・・・あの時、動揺を隠しきれなくて挙動不審だったかな私、キモいよなぁ。。ああ、でもどストライクだったなぁ、あの時やっぱ勇気出してメアド聞いとけばよかったなぁ。。しかしどストライクだったなぁ・・・と、後悔しつつ半ば諦めかけた時だった。

ぐわんぐわんぐわんぐわん。

歩道橋が揺れる。

・・・どうせ今回も疲れたサラリーマン風の薄毛おじさんか、耳にでっかい輪っかのピアスをぶら下げているキツネ目の若者だ。彼らは私を既に空気のように思っているのであろう。こちらを見向きもせず、私の後ろを早足に通り過ぎて行く。

さして期待もせず、チラッと階段の方を向く。


・・・彼だ。

暗くてよく見えないけれど、その佇まいは既にインプット済みだ。

私は夢を見ているのでしょうか。ニヤけ顔のどストライクがこちらに向かって歩いてくる。

ちょ!ちょいちょい!ちょいちょいちょい!!!え、ほんとに来た!まじで来た!!いや今更なんで来たの!諦めようとしちゃったじゃん、私!!

ちょっとしたパニックだ。「もう!おこったぞ〜!」と途中からめっちゃ数増やしてきてめっちゃ焦るやつだ。ワニワニパニックだ。

完全に不意を突かれた私は一旦目線を下の道路に向け、彼に全く気づいていないフリを決め込んだ。

そうだ、きっと彼は歩道橋を渡った先に用事があって、どうしてもここを通らなければならないのではないだろうか。私に気づかれなければそのまま何事もなかったかのように私の後ろを通り過ぎて行くのかもしれない。と言う事は・・・そう、私が気づかなければ良いのだ。

この時をずっと待っていたのに、いざとなったら急にヘタレ思考になる私。

そっと目を瞑り、歩道橋の揺れを感じながら、私は彼が後ろを通り過ぎるのを待った。


トントン。

ふいに肩を叩かれた。

間違いない。今、私は、彼に肩を叩かれたのだ。

その瞬間、心臓の鼓動が一気に速まり、彼に叩かれた場所を中心に身体が熱を帯びたのを感じた。私の顔はきっとまた真っ赤だ。

私は後ろを振り返り、彼だと既に知ってはいたのだが、さも今気づいたかのように驚いた素振りを見せた。下手くそか。

彼は相変わらず子供のような顔でニッと笑い、またしても瓶ビールを私の目の前に差し出した。

ヘッドフォンを外し、ビールを受け取る。

「やっぱりいたわ」

と、笑いながら彼が言った。

「うん、いるよ」

と、笑いながら(いやむしろずっと待ってたし、と思いながら)私が言った。


つづく。

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