みなまで言うな。コーシュカのすべて

【恋愛黒歴史】雲男。その拾参

【恋愛黒歴史】雲男。その拾参

前回のつづき。

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プルルルル

プルル「はいもしもーし」

ミトというナンパ男はすぐに電話に出た。

「・・・あ、今さっきハンカチ貸してもらったんだけど返し忘れちゃって・・・」

「ああ!わざわざ電話してくれたんだ!ありがと。まだ近くにいるから取りに行ってもいい?」

「うん。いま・・・信号渡ったとこにいます」

まるでわざとハンカチを忘れて電話が来るのを待機していたかのように思える素早さで彼は来た。実際これで私の電話番号をゲットできているわけである。

「待っててもらってごめんねー、ありがとうね」

そう言ってニッと笑う顔がどこか彼に似ていた。

「いや、こっちこそありがとう。ごめん、ほんとは洗って返せばいいんだけど」

「いいよ、汚れたわけじゃないじゃん。あ、てかさっきよりちょっと元気になった?」

「・・・うん」

「なってないね、うん、全然なってないよね!あー、ここまで来ちゃったし、心配だからやっぱ家まで送らせてよ」

「うーん・・・まあいっか。わかった」

この男の魂胆はわかっていた。心配と言いつつ私の家まで送るふりをしてあわよくば家にあがらせてもらい、最終的にはヤりたいのだろう。何かに心を痛めてさっきまで涙を流していた女を目の前にしているというのに、男というものはなんと浅ましい生き物か。下半身に圧倒的に支配されている。

どうやら私はこの一日で男性不信に陥ったようだ。

結果、私はミトのその下心に付き合ってあげる事にした。ミトがどんな男だろうがこの際どうでもよかった。興味もなかった。ただ今日の出来事を考えないようにしたい。一瞬でも頭の中から追い出したかった。

私は今誰の彼女でもないのだから何をしようと、たとえついさっき出会ったばかりの男と寝ようと咎められるような理由もない。自由だ。

体の相性が良いことが気に入ったのか、ミトはまた会いたいと言ってきた。

その場限りだと思っていたから意外だった。気が乗らない時に連絡されるのも面倒なので、会いたくなったら私から連絡すると伝え、その日は別れた。

夜中に誰かから着信があったが、疲れていたので出ずに寝た。


翌日携帯を確認すると、着信は私をどん底に突き落とした張本人の彼からだった。

また気が変わって昨日の言い訳をしようとしたのだろうか。気にはなったが、これでまた連絡をとってしまうとまんまと丸め込まれてしまうかもしれない。可能性があるだけに、それだけは避けたい。もう騙されたくない。あんなに惨めな思いはもうしたくない。

折り返しはしなかった。何かどうしても伝えたいことがあるのならメールをしてくるだろう。メールが来てないということは、まあそこまでのことなんだろう。

私は気にしないようにつとめた。とてつもなく努力した。


それからの私は、糸が切れた風船のようにゆらゆらふわふわとひとりで飲み歩き、声をかけてくる男が好みであればすぐについて行って寝るというようなふしだらな生活を送っていた。

恋愛感情を用いないその場だけの関係は楽だった。もしうっかりまた誰かを好きになって、またあんな目にあうのは耐えられない。お互い相手が好きで夜を共にしているわけではない。ただその日、たまたま利害が一致したから。

彼らにだって私のかわりはいくらでもいる。別に私である必要もない。相手は誰でもいいのだ。

私は・・・本当の意味での私は、誰にも必要とされていない。誰にも。そう思っていた。

けれど誰かと体を重ねていれば、その時だけは必要とされているような気がして満たされた。そう、その時だけは。

マズいと頭ではわかってはいたつもりだが、そこに私は依存してしまった。

ひどい時には2、3日セックスをしないと激しい不安に襲われるようになっていた。不安を紛らわすためにしているのに、数を重ねるたびに症状が更に酷くなるような気がしていた。

自分でもこの異常さには気がついていたが、こんなことを誰にも相談できるはずもなく、ひとりではどうしようもできなかった。症状が出た際に誰も都合がつかない時には、出会い系の掲示板やチャットで適当な男を見つけて即会う事もあったほどなので重症だ。この時、事件に巻き込まれなかったことだけは幸いだったと思う。


基本的には一夜限りの関係がほとんどだったが、ミトとの関係はその後も続いた。体の相性が良いのもそうだが、連絡したらすぐに予定を合わせてくれる事、余計なことを詮索しないのと、私が話したい時は黙って聞いてくれるところ、そして何より何回も会っているのにお互い恋愛感情を持たないのが心地よかった。


・・・そしていつしか常連のあの店には行かなくなった。なぜならそこにはタクさんがいるから。もしかしたら唯一私を必要としてくれるかもしれない。でもここで頼るのは違う気がした。なにより合わす顔がない。今の私を知ったらきっと嫌われる。タクさんにはこんな私を知られたくなかった。だから、何度か連絡は来ていたが最近忙しいとだけ返していた。


その後、関係をもったバンドマンに「俺の女になれよ」的な事を言われて渋々付き合うことになったが、しばらく経っても全く好きになれなかった。束縛が酷いくせに同時期にバンドのファンの子を食ったあげくに貢がせていたゲスである。私にバレて泣きついてきたが、これがチャンスとばかりに別れた。泣くくらいならやるんじゃねえクソが。アホか。


このバンドマンと付き合っていた時に一度だけ、また彼から電話があった。

出ないでいると、「久しぶり。元気?会えない?」とメールが来た。

「元気。彼氏いるから無理」と返すと、「そっか。わかった、残念」と返事が来た。知らんわアホか。何が残念なんだ。彼氏いるんだ連絡してごめん幸せになってね、だろがい!!!
腹が立つと同時に胸騒ぎがする。もう忘れたいのに忘れさせてくれない。忘れたいはずなのに・・・私は彼の電話番号さえ消せずにいた。


それからしばらくして、私の好きなアーティストのライブのチケットを安く手に入れるためにSNSの掲示板で探していると「友人が行けなくなったので一緒に行ってくれる人募集。チケット半額でOKです」という破格の書き込みを見つけた。出会い目的の可能性もあるが、事前にメアドや写真を送れなどのいかにもそれっぽいやりとりは無かったのですぐに申し込んだ。

ライブの当日に顔を合わせた書き込みの主は5歳年下で、まだあどけなさの残るかわいらしい男の子だった。好きな音楽が似ていたことで話が弾み、仲良くなった。

それからというもの、年下男子は車で片道1時間かかる私の家までわざわざ迎えに来てくれ、夜のドライブや夜景の綺麗な公園、海にも連れて行ってくれた。車の中でキスをされた時、私はこの男も可愛い顔して結局ヤりたいだけか…と落胆しつつも他の男の時と同じように身を預けようとしたら突然告白された。

「ありがとう。でもごめんね。私も好きだけど誰かと付き合うとかは今考えられないんだ・・・ごめん」

そう言って口を塞ぎ、私はその純粋な好意を性欲で誤魔化した。

それで終わるかと思ったが、「付き合いたいって思ってくれるまで待ってるから」と食い下がってきた。

こんなに真っ直ぐに気持ちを伝えてくれて正直とても嬉しかった。

でも、同時にとても怖かった。違う。誤解してる。私は君が思っているような女じゃない。汚して、汚されて、汚れてる最底辺の人間なんだ。付き合ったりしたらいつか幻滅する。幸せになんてなれない。そしてそのうち私をまたゴミのように捨てるんだ。怖い。

怖い・・・怖いけど、好きと言われるのはやっぱり嬉しい。私はこの男の子に必要とされてる。他の男達みたいに身体だけを必要とされているわけではない。付き合えないけど、でも私を好きでいて欲しい。適度な距離を保って、私の本当の姿を知られてしまわないようにしていれば幻滅されることもない。必要だと思ってくれる。

我ながらなんて身勝手なんだろう。


けれど、そこでふと、思った。



いま私、彼と同じ事しようとしてない・・・?



純粋な好意を受け止められず、人と向き合う事から逃げてる。きちんと向き合った上で裏切られる事がとてつもなく怖い。それなら向き合わずにひとまずその場その時が楽しければいい。それがずっと続くなんて思っていないから。はじめから未来になんて期待しなければいい。その方が傷付かない。幸せにはなれないが、不幸にもならない。それでいい。

本当のところはわからないが、この時彼の心の闇を少し感じることができたように思えた。


その事に気がついた私は、このまま気を持たせて私と同じような目にあわせるわけにはいかない、年下男子の青春時代の貴重な時間を私のために無駄にさせるわけにはいかない、と思った。後日、年下男子に「好きになってくれてありがとう」とお礼を伝え、「気持ちに応えられなくてごめんなさい」とお詫びをし、きちんとお別れをした。

都合の良い男たちとも手を切った。それまで長く続いていたミトにも「もう会わない。今までありがとう」と電話で伝えると「俺も転勤になったからちょうどよかった」との事だった。嘘か本当か結局最後までよくわからない男だったなと思う。変な関係だったけれど、ミトにはいろんな意味で助けてもらったので感謝している。


年下男子で多少心が満たされたのか、「いつまでも悲劇のヒロインぶってんじゃねえよさぶいんじゃクソが」と私の中のリトル私が絶叫していたのが聞こえたのか、その頃には依存症はかなり軽くなり、別のことで不安を紛らわせることができるようになっていた。

実はそれまでの間に彼から何度か連絡が来ていたのだが、その度に理由をつけてそっけなく返事をしていた。それでもまたしばらくして連絡が来るのが不思議だった。

私がまだ自分の事を好きなのではと思っているのだろうか。今更会ってどうしたいのか。直接私に会って謝りたいのか。それとも以前のようにただ私に話を聞いて欲しいだけなのか。


そうだ。次に電話が来たら、一度会って決着をつけよう。

今の私ならばきっと大丈夫な気がする。


しばらくすると、やっぱり彼から電話がかかってきた。


つづく


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