みなまで言うな。コーシュカのすべて

【恋愛黒歴史】雲男。その四

【恋愛黒歴史】雲男。その四

前回のつづき。

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【恋愛黒歴史】雲男。その【壱】 【弐】 【参】

私たちは歩道橋のすぐ近くにある、ブランコとすべり台くらいしかない小さな公園のベンチに並んで腰を下ろし、瓶ビールを飲んでいた。

間違いない。今回も彼はわざわざ私に会いに来たのだ。

もしかしたら歩道橋に私がいないかもしれないのに、だ。

自分と私の分の瓶ビールを持って、だ。

ここ大事なところな。


彼は職業柄、さすがに話が上手だった。店に来る変わったお客さんの話や自分の子供時代の話など、どれも聞いていて飽きないどころかクスッと笑えるものばかりだ。

私はというと、その話をうんうんと聞きながら、今がチャンスとばかりに彼のご尊顔をこれでもかと凝視。まさに目に焼き付ける勢いで。目が合う度に失禁しそうになるのをこらえながら。大人ですから。

・・・ちなみにここまでの間にもまだ名前を聞かれていない。まったく信じられません。私は前回からこの事をすごく根に持っているのだ。ねちっこい性格なのだ。

彼の方から聞いてくる気配は微塵も感じられない。けれどもそろそろここらへんでいい加減聞いとかないと後々もっと聞きにくくなるのではないか。後々があるのかはわからないが、とりあえず名前聞いといたほうが後々がある可能性高くなるんじゃねえかと思ったわけで。

今回のチャンスをモノにしなければ!勇気を出して、私!!!

ムーンプリズムパワー!メイクアァァァァップ!!!!!

変身した私にもう怖いものはない。

「そっ、そういえばさ、前に名前聞いたっけ?あの時ちょっと酔っ払っててあんまり覚えてなくて・・・」

覚えている。完全に覚えているのだが、私がめっちゃ名前聞きたいみたく思われたくなかったので、覚えてないフリをしてしかも自然に名前を聞き出すというムーン・ティアラ・アクションを繰り出した。

「あれ?言ってなかったっけ?あーごめん。ヨウです。そっちは?」

・・・。

酔っ払って本当に覚えていないのは彼のほうでした、っと。やれやれ。

私があんなに根に持っていて、こうやって名前を聞くのにもうメチャメチャ苦しい壁をね、なんていうか、ぶち壊す勇気とパワー湧いてくるのはメチャメチャきびしい人達がふいに見せた優しさのせいだったりするんだろうね。

は?

そんな思い(どんな?)でやっと聞けた名前。

漢字で教えてくれたのだが、彼の両親が大人になった彼を未来まで見に行ってきた後につけたのではないかと思うくらい、彼のイメージにぴったりな名前だった。

そして年齢は私の一つ上。見た目で勝手に年下と思っていたので少し驚いた。

彼にも名前を聞かれたから仕方がないので私も教えた。ああまったく、そこまで知りたいのならば仕方がない。

そもそも私に会いに来たのは彼の方ではないか。あみんの待つわよろしくストーカーばりに待ち続けたのは私だけど、通り道でもないこの歩道橋に私に会おうと思ってわざわざビールを二人分買ってきたのは彼の方だ。

うむ、実に優位である。

よし、この勢いのまま連絡先を・・・と思ったが、待て待てはやるな私。あまりがっつくと獲物が逃げてしまうぞ。ここは駆け引きが非常に大切なんじゃないか?まだ好きになったわけじゃないですよ、くらいの雰囲気を出しておいたほうがいいのでは?好きだけども。既に好きだけども!

歩道橋で会ったのがもう深夜0時近くだったものだから、公園で話している間にあれよあれよともう2時近くになっていた。ここで気遣いのできる女をアピールしつつ、気があるそぶりを見せない言葉と言えばこれだ。

「・・・じゃあそろそろ帰ろうかな。明日も仕事だもんね」

「あ、俺は明日休みなんだよね。まあでももう遅いし帰るかー」

そう言いながら、ぐーっと両腕をのばし立ち上がる。

待て待て、そうですこの人美容師だから平日休みだ。すっかり忘れてた。

「えっ、それなら別にまだいいけど・・・」

と、思わず本音がひょっこりはん。

「いや明日仕事でしょ?帰って寝なさい」

「あ、うん・・・そうだね。ありがと。あ、ビールもありがと」

「いいよ、楽しかったし。また来るわ。」

彼を歩道橋の手前まで見送り、小さくなっていくその後ろ姿をジト目で追う私。


・・・・・・・・・・。

いや駆け引きヘタクソか!!!!!!!!

ああ殴りてえ。さっき「ここは駆け引きが非常に大切なんじゃないか?」とか言ってた私の頭の中のリトル私を殴りてえ。おまえ何様だよ。誰の許可とって私の頭の中で勝手にしゃべってんだよアホか。駆け引き初心者なクセして帰る雰囲気出してあっちから連絡先聞いてくるんじゃねえかとか期待してんじゃねえぞこのクソが。結局聞かれなかったじゃねえか馬鹿なの?ねえ馬鹿なの?

・・・ほんとばかだなあ。結局連絡先聞かれないんだったらもっと一緒にいたかったなあ。なにやってんだ私。。

・・・ん?待てよ?でも「また来るわ」って言ったよね・・・?また来るわってまた私に会いに歩道橋に来るってことよね?じゃあ待ってればいいのね!私またずーーーーっと待ってればいいのね!歩道橋の主みたいに!!


〜しばらく歩道橋の主期間〜


ずっと待ってた努力が実ったのか、それからまた約1週間後に彼は私に会いに来た。本当にまた来た。有言実行だ。しかも今度は缶ビールを4本持って。

深夜に例の公園のベンチで二人並んで飲みながら話す。彼の話は尽きない。話題が豊富すぎる。そして必ず面白い。

私も話を振られれば話すが、私の話はいかんせんネタもオチもなく面白くない。なのでほぼ聞き専門だ。

しかし実に気になる。

なぜ彼は面白い話をするわけでもない私に会いにくるのだ。

私にただ話を聞いて欲しいの?それなら得意だ。私は人の話を聞くのが得意で、人からよく相談されやすいタイプだからだ。もしかしたら彼は仕事で客の話を聞くのにうんざりしているのではないか。自分の話を誰かに聞いて欲しい。あ、話聞いてくれる都合のいい女がいるじゃないか・・・そう、私だ。

いや待てよ。そういうのって友達とか彼女の役割じゃないの?え、もしかして仲の良い人には本音で話せないめんどくさいタイプの人なの?それとも友達も彼女もいな・・・いやいや、それはないわーこんな(私の中の)イケメンに限ってないわー。

でも彼女いるんなら、今のこの状況って彼女的にはアウトじゃない?夜中に女と二人で飲むとか。彼女公認の女友達とかならまだしも。どこの馬の骨ともわからん歩道橋の主と夜中に公園のベンチで並んで座ってビール飲んでる。

完全にアウトだろ。

だがここでもし「彼女いるの?」とか聞いたらもう終わりだ。好きなのがモロばれNGワードだ。今はとりあえず聞かないでおこう、今は。

というかもしかしてだけどこの人私の事好きなんじゃないの?と、どぶろっくが出てきたところでハッとして、

・・・え?カレガー?ワタシノコトヲー?ス、ス、ススススススス!!!!ピーーーーーーーーピョロロロローーーーーーーーーーーーーーーーーガガガガガガガーーーーーー!!!!(ダイヤルアップ接続を開始しました)

とか頭の中であれこれ考えすぎて最終的にもうどうでもよくなって、今この瞬間に彼と楽しくお酒を飲みながら話せるだけで良いではないかと思い始めた頃。

私の例の常連の店で、近々オールのイベントがあって行こうと思っているという話をした。彼もどうやらその店は知っていて、そのイベントにも行けたら行くという感じの反応だった。

しかし私は知っている。

「行けたら行く」と言う人で本当に行く人はいない。体の良いお断りのセリフだ。現に私も当時は誘われた飲み会に行きたくない時、よく使っていた。

まあ一緒に行けるかもとか一瞬ね、もしかしたらって一瞬だけ夢見ちゃったけどね、世の中そんなに都合よくできてないんだわ。

と、心の中でこっそり落胆していた時だった。


「あ、そうだ。番号おしえてよ」


私が今までなかなか言えなかったセリフを、彼はいとも簡単に、まるで期末テスト前いつもつるんでる仲の良い友達に「さっきテスト範囲聞いてなかったから教えてよ」と聞くくらいのテンションでサラッと、人懐こい笑顔とともに私にお届けした。

はい、ここで「ラブ・ストーリーは突然に」のイントロドン。


つづく。

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