みなまで言うな。コーシュカのすべて

【恋愛黒歴史】雲男。その壱

【恋愛黒歴史】雲男。その壱

呼ばれて飛び出てコーシュカです。

特に需要はないが、恋愛黒歴史シリーズはじめました。←

他人の黒歴史好きな方には良いアテになるかと。

まずは一人目。

しかしなんたって記憶が私の頭の中の消しゴム状態なので、抜け落ちた記憶のところどころにフィクションを注入して補ったり補ってなかったりしてます。

ですので、この際思い切って架空のお話だと思っちゃってくれて構いません。責任は一切持ちません。

ニヤニヤしながら読んでくれたらこの上ない喜び。

それではどうぞ。


若かりし頃、毎晩のようにふらふらと飲み歩いていた私。

何軒かハシゴすることもあったが、いつも最初に行く店は決まっていた。

私はその店の常連だったのでスタッフとも気兼ねなく話せるし、他の常連客ともほぼ面識がある。だから1人でフラっと立ち寄っても誰かしらと「おっす!今日も飲んでんのか!」「お前もな笑」みたいなやりとりから始まる。

私の飲んだくれユートピア。

その店は私の家から徒歩5分の距離にあり、終電を気にすることなく朝まで飲むことができる。が、一応翌日仕事がある日は日付が変わる前になるべく切り上げるようにはしていた。

仲の良いスタッフにサービスしてもらったり、年上で太っ腹な常連客が頻繁におごってくれたりはしてはいたが、それでも毎日のように飲んでいたら基本的に金は無いのである。

いや私は酒に一体いくら注ぎ込んだんだ、その分貯金してたら普通に車買えたんじゃねえか。と、今更ながら後悔。まあ当時はそれで毎日楽しく生きていたのだから良しとしよう。相変わらず自分には甘い。

そんなユートピアでいつも通りほろ酔いになりながら帰るのだが。

私は当時、日課にしていた事があった。

それは自宅まで帰る途中にある歩道橋、そのど真ん中で下を通り過ぎて行く車のライトを眺めながら、ヘッドフォンで音楽を爆音で聴く事。

これ、家で聴くよりも音楽の沼にズブズブ沈んでいく事ができるのであってだな。一曲だけで切り上げる時もあれば、気がついたら2時間経っていたということもしばしば。とんだタイムワープマイブームだ。

でもね、ちょっと想像してみようか。

夜中に歩道橋の真ん中ででっかいヘッドフォンつけて死んだ魚の目して意識ぶっとんでる女がいたらどう思う?しかもたまに歌ってたり泣いてたりする。

今の私だったら確実にその歩道橋渡らない。恐ろしくて迂回する。

なんかよくわからんけどいつも夜中いるしやべえ。もしかして待ち伏せ?辻斬り?切り裂きジャック?え、まさかの幽霊!?凶器とか隠し持ってんじゃねえか。後ろ通り過ぎる時に「ウワー!」とか急に叫ばれたりでもしたら心臓飛び出るよね。何かしら「ヤられる」って思うよね。まじこええええ!

そうなの。私、近所の人に当時すげえ恐怖を与えてたと思う。あそこらへんの地域で噂になってたかもしれないし、もしかしたら警察から住民に呼びかけがあったかもしれない。

「あの歩道橋は絶対夜に渡らないでください。不審者が出ます。」

とかね。おーこわ。

じゃねえわ、いやほんとに申し訳ない。

その事に1ミリも気づく気配もなかったKYな私は、この歩道橋って夜はあんまり使う人いないんだなーとか呑気に考えてたわけで。


その日もほろ酔いで、気分良く歩道橋の階段をスキップするような勢いだけはありつつも普通にゆっくり上る。いつものとおり橋の真ん中を陣取って手すりに肘をついて寄りかかり、ヘッドフォンを装着して準備完了。沼へ深く沈みはじめたその時。

「痛っ」

一瞬風が強く吹き、ゴミが入ったのか目に痛みを感じた。

私の意識は沼の底だが私の身体は歩道橋の上なので、もちろん痛みは感じる。ええ、当たり前でしょうに。

すぐさま目を擦る。

ゴシゴシゴシゴシ・・・ポロッ。

ん?なんかポロッてならんかったかのう今・・・あ、そういや私コンタクトしてたわ・・・

軽く絶望。

酔っ払ってコンタクトしてるのも忘れて目を擦りまくった私。

やっちまった・・・

深いため息をついてヘッドフォンをゆっくりと外し、その場で静かに腰を下ろす。携帯電話の僅かな光を頼りに、手をコンクリートにそっと這わせて小さく脆く透明なコンタクトを探す。

その時だった。

カンッ、カンッ、カンッ、カンッ

歩道橋の階段を誰かが軽快に上ってくる音。

やべえ、と私は思った。今ここを通られたらコンタクトが踏まれてしまうかもしれない・・・

階段を上ってきた人の影が遠目に見えた。背格好で男だとわかる。こちらに向かって歩いて来る。歩道橋がぐわんぐわん揺れる。

早いうちになんとか状況を伝えなければ!(言い訳しなければ!)

と声をかけようとしたその時、その男は私の方を見て立ち止まり「ふふっ」と笑いながらこう言った。

「何してんの?」

え、何って、誰?知り合い?・・・いやたぶん知らんな。(暗くてよく見えない)

知り合いじゃなかったらなんだこいつ。今笑ったよな・・・しかもタメ口だし。絶対酔っ払いだろこいつ、こわー。バカにしてんのか!こちとらコンタクト探しに必死なんだよ!!

・・・と思ったが、よく考えると私のこの状況の方が完全に「なんだこいつ」である。夜中に歩道橋の真ん中でうずくまってコンクリートをなでなでしているように見えるであろうからな。

「いや、すいません、ちょっとコンタクト落としちゃって・・・」

うむ。ちゃんと大人の対応できた私エライ。

「まじかー!じゃあここ通れないじゃん、絶対踏んじゃうもん俺」

いや踏むなよ。踏まない努力しろよ。いや、してください。

「ほんとすいません・・・」

若干イラッとしつつもとりあえず謝る私。

「そっかー、じゃあ俺探すの手伝うわ」

・・・え?手伝うって言った?え、なんで?

と私が少々驚いてる合間にその男はこちらに近づいてきた。

さっきは少し離れていたし暗くてよく見えなかったのだが、外灯に照らされ近づく毎にだんだんと露わになるそのお顔・・・

お、お、お顔・・・?

な、なな、ななな!なんと私のタイプど真ん中じゃねえか!!!
(なお私はよく友人にB専と言われるので、彼が果たして一般的なイケメンかどうかは判断できかねます。悪しからず)

急に焦る私。そしてさっきまでのイラついていた気持ちが一瞬で宇宙の彼方に吹っ飛んで消え去った。

え、何?超どストライクの男が、今、私の目の前で、私が落としたコンタクトレンズを、一緒に、探して、く、れ、る・・・だと?
なんだこの展開…こんなことってあるんすかね。この人がここを通るタイミングでコンタクト落とすとか。。
あっ、もしかしてこれは…運命なのかもおおしれなーいいいいい!

などと妄想トリップで狂喜乱舞していると

「はい、これあげる」

と、彼が持っていたビニール袋から何かを取り出し、私の顔の前に差し出した。

瓶ビール・・・うん、間違いない。これは瓶ビールだ。

一応言っとくけど小瓶ね、大瓶ではないやつね。

彼の方を見るともう一本持っている。二本買ってきたうちの一本を見ず知らずの不審な女に分け与えると言うのだ。

え、この世に舞い降りた天使かな?幻覚見ちゃってんのかな?私いつ死んだの?

「あ、ありがと・・・」

とりあえずもらえるもんはもらうスタイル。

さて、ビールもらったし飲むか・・・

ではない。

あたしゃ今コンタクト探してるんじゃ!一瞬忘れかけたけど!!あぶねえ。

ってことでビールは一旦脇に置いといて、どストライクな彼がなぜか一緒に探してくれたんだけどね。結構一生懸命に。酔っ払い2人で携帯の小さな明かりを頼りにね。

けれどもなかなか見つからない。まあそりゃ暗いし酔っ払いだし無理よね、あんな透明でちっさいもん見つけるのなんて。

「全然ないじゃん・・・」

彼はすでに諦めモードである。

私ももう、コンタクト落としたと言うより歩道橋の外側へ飛んでった説を強く信じはじめていた。つまり、諦めた。

「せっかく探してもらったのになんかすんません・・・たぶんどっか飛んでっちゃったのかもしれないから今日はもう諦めて帰ります。ほんとすいません、ありがとうございました」

的な、酔っ払ってる割にちゃんと敬語で大人の対応をした私。見つからないことでなんだか彼の貴重な時間を無駄にしてしまったように思えて申し訳なかった。

あわよくば連絡先とか聞きたいところだけれど、申し訳ないのと突然のどストライクに我が免疫が間に合っておらず正直自宅に逃げ帰りたかったのだが。

「いいよ全然、見つかれば良かったのにね・・・よし、じゃあ飲むか」

じゃあ飲むか・・・?

「え?・・・あ、ビール??」

「うん、はやく飲まないとぬるくなっちゃうし」

いや、帰って冷蔵庫に入れれば…とか余計なことはこの際考えないでおこう。帰りたいのはやまやまだが、何しろどストライクが一緒に飲もうと言ってくれているのだ。この誘いを断るわけにはいくまい。

「あぁ、うん、そっすね…じゃいただきます…」

歩道橋を降りてガードレールに2人で並んで寄りかかり、ビールを飲む。

「じゃお疲れ!かんぱい!」

「かんぱーい。。」

えーっと、これは一体どんな状況なんだ…青春映画か何かなのでしょうか!ここから私たちの何かしらが始まるのでしょうか!教えてエロいひ・・・誰かあああ!!!

と、心の中のリトルホンダ…いや、私が叫んだ。


つづく


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